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日本EU学会ニューズレターNo.6

2000年12月25日

〒140-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-4

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究科(国際経済法学系)

庄司克宏研究室内 日本EU学会事務局

Tel & Fax :045-339-3641

E-mail :eushoji@mb.infoweb.ne.jp

European Studies Association-Japan


目次

Ⅰ.新理事長の挨拶 岡村堯

Ⅱ. 新理事の挨拶 円居総一 / 佐々木隆生 / 正井章筰 / 大和正史

Ⅲ.恩師金丸先生を偲んで 児玉昌巳

Ⅳ.日・EU関係の現状と展望について 外務省経済局国際経済第一課長 林肇

Ⅴ.お知らせ(懸賞論文コンクール)

Ⅵ.第5回世界EU学会便り 礒野喜美子 / 福田耕治

Ⅶ.研究の視角―若手研究者に聞く  鈴木一人 / 柑本英雄

Ⅷ.在外研究からの帰国報告 勝井真理子 / 鶴岡路人

Ⅸ.新入会員の紹介

Ⅹ.原稿募集


Ⅰ.新理事長の挨拶

「理事長就任のごあいさつ」

日本EU学会理事長  岡村 堯

2000年11月12日開催の理事会において、理事長に選任されましたので、紙面をお借りして一言ごあいさつ申し上げます。日本EU学会は、わが国に数あまたある学会とくらべて大きな特徴を有しています。それは会員構成内容がきわめてヴァラエティに富んでいるということです。そもそも学会発足のときに、経済、法律および政治の面から当時のEC研究者による研究団体を設けるということを目的としたわけですから、当然といえば当然ということになるでしょう。

その後、この学会も順調に発展を続け、99年には発足20周年を祝うまでになりました。この間会員の数も大幅に増えるのと同時に、研究対象も非常に広がってまいりました。このような事情に鑑み、しかも成人式を済ませた学会としては、折しも21世紀を迎えるにあたって、変革のときを迎えていると思います。つまり、可能な限り全会員の声が反映した学会運営をするにはどうしたらよいかという課題に取り組むことです。

そこで以下に述べる案は全くの私案で理事会にも計っていないのですが、まず法・政・経の各分野の外に、文化という分野を設けてはどうかと思っています。この分野にはEUの歴史、民族、宗教等の研究者が含まれます。学会運営に方にも参加して頂くことになりますし、また研究発表の場も新しく設けることになります。第2に学会の活性化も必要だと思います。そのためには、若い研究者の皆さんの積極的な協力が望まれます。まだ、思いつきの段階ですが、若手研究者あるいは女性研究者相互間の研究・学術情報を密にするためのタスク・フォースの設置などを考えています。忌憚のないご意見を事務局あるいは私の方にお寄せ下さい。21世紀の幕開けが、会員皆様にとって良いお年となりますようお祈りいたします。


Ⅱ.新理事の挨拶(五十音順)

1. 円居 総一

(えんきょ そういち)1948年生まれ

日本大学国際関係学部・同大学院教授兼日本大学グローバルビジネススクール教授

ロンドン大学LSE博士課程卒Phd(Econ) 専門は、国際金融、経済政策論

東京銀行ロンドン支店、本店調査部、NY支店次長、

東京三菱銀行米州本部SVP兼主席エコノミストを経て、97年より現職。

欧州の統合は統一通貨Euroの発行にまで漕ぎ着け、また日本EC学界も着実に発展しながら有数の学会として成人式をむかえるという時期に理事にご推薦いただき、恐縮致しております。前身の日本EC学界発足間際に調査部の欧州、EC問題担当に就きましたのが、EUそして本学会とのお付き合いの始まりでもありました。銀行の先輩である故滝沢上智大学教授、アジア大学の河西先生、本学会の大先輩であられる島野先生、前理事長の田中先生など多くの大家に指導、コメントを賜りながら欧州の経済・金融統合を中心に拙い調査、分析を進めて参りましたが、EUの発展、本学会の発展に比して、わが身の研究の至らなさに恥じ入っている次第です。

どこまで新理事として貢献できるのか、誠に心もとない限りではありますが、学際的研究ということを実践、発展させてきた本学会のよき伝統を継承、発展させていくことに経済分野から少しでも貢献してゆければ、と思いを新たに致しております。どうぞ、運営面等を含め、会員、諸先輩の皆様のご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。 

2.佐々木 隆生

グローバル化は、為替相場や安全保障をとってみてもEU研究の必要性を以前にまして大きくしているのではないでしょうか。EUと同様に、学会もまた現代の諸課題に対応して発展することが望まれていると存じます。こうした時期に理事に選出されましたが、学会のファウンディング・ファーザーの意志を継受して、微力ながら学会の発展に貢献しうるように努めたいと存じます。

北海道大学大学院経済学研究科教授、経済学博士、1945年生まれ、東北大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、『国際資本移動の政治経済学』(藤原書店、1994年)、『ヨーロッパ統合の脱神話化』(中村研一との共編著、ミネルヴァ書房、1994年)、『構造変化と世界経済』(村岡俊三との共編著、藤原書店、1993年)他。

3.正井 章筰

この度、新理事に就任いたしました正井章筰(まさい・しょうさく)と申します。

1944年に兵庫県加古川市で生まれ、その後、隣の高砂市で約25年間過ごしました。1964年に神戸大学に入学し、1976年3月に神戸大学大学院法学研究科(博士後期課程)の単位を取得しました。1977年に熊本大学(法文学部)講師となり、同助教授を経て、87年に―新設された―姫路獨協大学(法学部)教授、そして97年4月から大阪学院大学(法学部)に所属しています。

1973年頃から河本一郎先生(現在、神戸大学名誉教授・学士院会員)のご指導の下にドイツの企業法の研究を始め、今日に至っています。1980年頃から、EU(当時はEC)の企業法についても研究を始めました。そして、1995年の本学会において、「EUにおける従業員の情報入手権および協議権」というテーマで報告させていただきました。単著として、『西ドイツ企業法の基本問題』(1989,成文堂)、『共同決定法と会社法の交錯』(1990,成文堂)(博士論文)、『EC国際企業法』(1994,中央経済社)があります。最近は、日本の会社法の論文の外に、ドイツのコーポレート・ガバナンス(監査役会制度の改革、経営者の責任など)に関する論文を書いています。

これから日本EU学会会員の皆様のご指導を受けつつ、理事の職務を遂行していきたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。

4.大和 正史

昨年11月、近畿大学で開催された日本EU学会研究大会総会で、理事に就任することになりました。予期せぬ事態でもあり、責任の重さを痛感しております。

私は、1987年から1989年まで、企業結合法を研究テーマに当時の西ドイツに留学しておりましたが、ちょうどEC加盟国会社法の調整が進められていた時期でもあり、EC会社法にも関心を持つようになりました。さらに帰国後、幸運にも勤務先の関西大学法学研究所にEC法研究班が設置され、そのメンバーに加わることができたほか、1992年には、同研究所主催により国内外の研究者を招いて開催された国際シンポジウム『法とヨーロッパ統合』に参加する機会を得ました。

EUでは、1992年当時、ヨーロッパ株式会社(SE)法案の策定にまで漕ぎ着けましたが、労働者の経営参加をめぐる加盟国間の対立が解消できず、中断状態が続いていました。しかし、昨年12月、南仏ニースで開かれたEU首脳会談において、労働者の経営参加を促進することを目指した「EU会社法」の制定で基本合意したとのことです。

こうした動きを受けて、一時中断していたEU研究に努力するとともに、微力ではございますが、学会の一層の発展に力を尽くしたいと存じておりますので、皆様のご協力、ご支援を心からお願い申し上げます。

<略歴>

1976年新潟大学人文学部卒業、1981年神戸大学大学院単位修得退学、 現・関西大学法学部教授

<主要業績>

○「EC会社法第12号指令とドイツのコンツェルン責任規制」関西大学法学研究所研究叢書10『EC統合から欧州連合への展望』所収35~72頁(1993年)

○「EC指令の直接的効力」関西大学法学研究所研究叢書12『EC法と欧州連合の現状』所収1~39頁(1996年)

○「子会社の少数株主・債権者の保護」ジュリスト1140号56~60頁(1998年)


 Ⅲ.恩師金丸先生を偲んで   児玉 昌己(長崎純心大学教授)

私どもの恩師であり、同志社大学法学部長、EU学会理事長などの要職を歴任され、同時にEU研究会(通称金丸研究会)を長年指導されてきた金丸輝男先生が、21世紀を目前にした11月25日にご逝去された。享年65歳であった。肝臓疾患との壮絶な戦いは実に30年に及ぶものであった。

洛北での告別式は厳粛な中にも、400名を超える参列者をえて、盛大に執り行われた。研究会メンバーで、近郊に在住されている荒岡興太郎(京都精華大学)、辰巳浅嗣(阪南大学)の両先生などが、ご家族とともに最期のときに立ち会われた。吉備国際大から戻り、恩師を学内で補佐している鷲江義勝(同志社大)は、直前に京大での講演の代役をせよとの先生の命を受け、急遽病室から移動し、最期をその会場で聞いたことを後で知った。恩師は、そんな体調にもかかわらず、直前まで外部での講演依頼を承諾され、それを気にしておられたのである。関西を離れてしまった福田耕治(早稲田大)と私は、訃報を電話越しにうなだれ、ただ黙して聴くだけであった。

恩師との別れでいえば、この夏高山での研究会の合宿にご参加いただいたことが幸いであった。メンバーがほとんど揃い、会は大いに盛り上がった。また個人的には、亡くなられるほぼ1ヶ月前、京都は紫竹にあるご自宅に伺い、EU学会での学会報告の骨子について聞いていただいた。硬い報告をなるべく柔かくするように、意図して笑わせる個所を作っていたところで、ホホホと笑っていただいた。それが何よりうれしかった。それが先生との別れとなった。

ここ数年は、正直、これがお別れになるのではないかと毎回想いつつ、研究会での時間を過ごしてきた。古くからの研究会のメンバーはみな同様だっただろう。奥様からの話もあったし、それほど悠揚ならざる容態の連続だったのである。先生御自身も最期の時を意識しておられたようで、高山合宿の際、「みんなぞれぞれに活躍してください、僕は消えるから」といわれ、一同が重苦しい雰囲気になったこともあった。とっさに、マッカーサーみたいですね、老兵は消え行くのみ、次にはI shall returnではないですかと受け、その場の苦しさをかわすことが精一杯だった。

恩師のことを語れば、何時間あっても足らない。10年前に入院中に大動脈瘤破裂による大出血で、それこそ奇跡的に生還されていた。そのことから実に10年、大学が休みに入るたびに、検査入院を繰り返されていた。この間、ご子息は大学教師に、そして銀行にと就職が決まり、またご息女は嫁がれた。

研究会の方もこの間、多数の成果をあげた。書店に並ぶ書籍だけをとっても、『EUとは何か:欧州同盟条約の解説と翻訳』JETRO1994年、『ECからEUへ:欧州統合の現在』創元社1995年、『ヨーロッパ統合の政治史』有斐閣1996年、『アムステルダム条約』JETRO2000年と立て続けに4冊も上梓できた。 研究会のほかにも、恩師の業績は、まだ多数ある。そんな体調にもかかわらず、驚くべき精神力で、この間も欧州統合の研究に打ち込まれ、かつ学界をリードされたのである。

実際、先生の欧州統合研究歴は筋金入りというべきものであった。先生は早くも昭和30年代の大学院時代に岡本清一先生の指導の下で、欧州石炭鉄鋼共同体の超国家性に着目され、修士論文を書かれた。それ以降、一貫して欧州統合研究にそのエネルギーを注がれた。ベルギーの欧州大学院大学での在外研究を経て、その蓄積を基に1982年には極めて実証的で最高水準と評価されたあの御著書『欧州議会』(成文堂)を刊行された。

亡くなられてはじめて、先生に誉められたいが一心で論文を書いていたことに、今気づいている。優しさにあふれた先生の厳しい指導や助言をもう受けられないことを想うと、断腸の思いである。21世紀の欧州統合の有り様など、まだまだご教示いただくことは山ほどあったのに。今はただ先生が拓かれた欧州議会研究と欧州統合の政治分析を継続することが、残されたものたちの努めであると考えている。


4.日・EU関係の現状と展望について  林 肇(外務省経済局国際経済第一課長)

21世紀の最初の年を迎え、国際社会の行方について考えを巡らす好機にあるが、日頃、政府の中で日本とEUとの関係の実務に携わる者として、日・EU関係の現状と展望についての気づきの点を、いくつか簡単にご紹介したい。

第一に、日本とEUとの間の政府ベースの関係がこれまでになく良好だということである。ここでその要因を分析する余裕はないが、一方で、統合の深化と拡大を通じてEUの活動分野が拡張し役割と発言力が増大したこと、他方で、一時期のような経済・貿易摩擦の処理だけでなく、国際的な諸問題への対応や投資の交流などで双方が積極的に協力するようになったことが、今日の日・EU関係の基盤になっているように思われる。

第二に、日本とEU双方の当局者が現在の日・EU関係を更に発展させたいと考えていることである。このことは、昨年7月に東京で行われた日・EU首脳協議において首脳レベルで確認されている。同協議の共同結論文書は、「日・EU首脳は、日・EU協力を新たな段階に進める時期が来たことに合意し、本日、東京において、2001年からの10年間を「日欧協力の10年」とすることを宣言した」と記している。

第三に、日本とEU双方の当局者が日・EU関係を発展させるための方途を盛り込んだ文書の作成に取りかかっていることである。今日の日・EU関係を築く上で基礎となった文書として、1991年7月に作成された「日本国と欧州共同体及びその加盟国との関係に関する共同宣言」(日・EC共同宣言)があるが、現在作成しつつある文書は、この共同宣言に基づきつつ、それ以降の進展を考慮に入れ、また、具体的な行動計画を付属させたものとなる予定である。行動計画については、「平和と安全の促進」、「万人のためにグローバル化の活力を活かした経済・貿易関係の強化」、「地球規模の問題及び社会的課題への挑戦」、並びに「人的・文化的交流」という、前述の共同結論文書で明示された「より強固なパートナーシップのための4つの重点目標」に沿って構成されることになっている。

第四に、日本とEU(法的な主体はEC又はユーラトム)との間で特定の分野での協力を行うために国際約束を締結する作業が進展していることである。具体的には、通信機器や電気製品の輸出に当たり必要な基準承認を輸出国内で行うことが出来るようにするための仕組み等を設ける相互承認協定(MRA)や、競争政策分野での協力のための協定があり、また、原子力の平和的利用に関する協力のための協定についても作業が行われている。

日・EU関係は、更なる発展の方向にあるものと確信するが、同時に、日米関係や日本とアジア諸国との関係のような幅広く強固なものとは言い難いこともまた確かである。日本とECとの間では、政府間、経済界、学問、文化等様々な分野において、現実に日・EU関係に携わる人々による粘り強い努力が引き続き必要とされていると感じている。


Ⅴ.お知らせ(懸賞論文コンクール)

21世紀における日本とEUとの関係を考える

懸賞論文コンクール

21世紀の幕開けとなる2001年、日本とEU(欧州連合)は「日欧協力の10年」として新たな10年間の協力を進めていきます。欧州は、欧州連合を中心として、ユーゴの民族紛争への対応や、ユーロの誕生を経て、政治経済の深化と拡大を進めようとしています。このような欧州とどのような関係を築いていくべきなのか、私たちは今、21世紀における日EU関係について、改めて考える時期を迎えています。

今回の懸賞論文コンクールは、「21世紀における日EU関係」と題して、多極化・複雑化した国際社会における日本とEUとの関係のあり方について、大局的な視点から、意見を募集することとなりました。日本EU学会会員の皆様におかれましては、本コンクールの趣旨にご賛同いただけますようお願いいたしますとともに、民間研究者、大学院生を含め、多くの方々にご参加いただけるよう、何卒、ご高配方、よろしくお願い申し上げます。

本件企画の詳細につきましては下記までお問い合わせ下さい。

・(社)日本外交協会「日EU関係に関する懸賞論文」係

電話 03-3584-6200

http://www.spjd.or.jp

・外務省 国際経済第一課

電話 03-3580-3311(内線 2516)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/


Ⅵ.第5回世界EU学会便り

 1.礒野 喜美子(大阪薫英女子短期大学)

“ECSA WORLD2000”は12月14・15日に“Enlarging the European Union”の表題で開催された。会議の構成はPLENARY SESSION、WORKING GROUPS、PLENARY SESSION  CONCLUSIONS & CLOSING)で運営された。ニースEU首脳会議が12月に閉幕した直後であり、多くの妥協の産物とは言えニース条約実現へ努力したフランス議長国へ敬意を払う挨拶からスタートした。

筆者はW.Gの第2G、“Economic and Financial and Capacity to ensure the Enlargement of the EU”に参加した。CEECSへの金融市場、銀行制度の導入進捗状況、及びeuroに関する報告、CAP導入と財政問題、地域格差・構造基金と財政についての報告、続いて活発な討論が行われた。前半では、ユーロの脆弱性は背後に統合されたパワーが付随していないことに起因する。国家政策裏付けのない通貨の性質をユーロに与えたEMUの帰結であるとして、今後の方向として連邦主義的政治統合を仮説的に展開していた。次では中東欧諸国の金融部門改革は道半ばである。国家による規制と管理は改革の優先性として残っており、加盟準備の躓き石となる。外資導入と金融市場の安定化へのバランスを検討し、委員会へは加盟国選別に際して透明性の高い対応を要請していた。後半のCAP関連報告で、CEECSのGDP及び雇用に占める農業比率の高さ、産業形態のEU平均との格差等から、EU加盟・CAP適用について述べられた問題はこれまで示されてきた(筆者が1999年11月・研究大会で報告した内容)ものであった。敷行しておくと、CEECSへ現状のCAP適用は生産を上昇させ、過剰生産→輸出拡大→EUのWTO交渉へのマイナス効果を指摘。また、一層の改革主要素は、CAP制度的価格の更なる引下げ(EUと世界価格の差の縮小)、直接支払いのデカプリングと生産制限の廃止、が提案された。クロージングセッションでは「委員会は今後10年間、CAPをどうリードしていくのか」という問いかけがされていたのが印象的であった。

晩餐会ではマダム・ラストヌーズの永年の功績を称え、golden retirementにふさわしい華やいだ雰囲気の中でお別れできたことを報告して本稿を締め括ります。

 2.福田 耕治(早稲田大学教授)

2000年12月14日と12月15日の両日、ブリュッセルにあるEU閣僚理事会本部(シャルルマーニュ)ビル内の国際会議場で第5回ECSA-WORLD(世界EU学会)が開催された。日本EU学会からは、十数名(現地在住者の参加を含む)の会員が出席した。今回は、「EUの拡大」を統一テーマとし、初日の午前に、ニース条約の交渉経緯などが紹介された後、午後から政治的・機構的問題(第1部会)、経済問題(第2部会)、法律問題(第3部会)および対外関係(第4部会)に別れ、各ワーキング・グループごとに討議を重ねた。2日目は、各グループの議長がそれぞれの分野での討議結果を総括して報告した。日本から提出されたペイパーは、第4部会での報告を担当された渡辺啓貴東京外国語大学教授の”The development of ASEM.”と私の”La coopération réglementaire en Europe et au Japon”である。これらを含め、今回配布されたすべてのペイパーは、1枚のCD-ROMに収められ、参加者全員に配布された。このCD-ROMは、全国のEDCにも送られ、利用できるものと思う。なお、今回、欧州委員会の公式招待参加者以外でも、日本EU学会会員の希望者には大会への参加が認められた。中東欧諸国をはじめ、世界各国のEU研究者と知り合いになり、議論できたし、最新の情報を収集することができたため、本学会の会員諸氏の間では「有意義であった」と言う声が圧倒的に多かった。次回の世界大会にも、日本EU学会から多くの会員諸氏が参加されることを期待する。


Ⅶ.研究の視角 ―若手研究者に聞く―

1.鈴木 一人

イギリス・サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了(Ph.D.)

現在、筑波大学国際総合学類専任講師

〔主要業績〕

・『グローバリゼーションと国民国家』(共著/青木書店、1997年4月)

・「1981年から1991年までのミッテラン政権における欧州政策の変遷」(Ⅰ)(Ⅱ)(『立命館国際研究』第8巻第2・3号、1995年10月・12月)

・「ミッテラン政権の経済政策とフランスの欧州政策」(『日本EC学会年報』第16号、1996年)

・「欧州産業政策の政治経済学:先端技術開発政策への統合領域の拡大」(石黒ほか編『現代の国際政治経済学:学際知の実験』法律文化社、1998年4月)

・「国際協力体制の歴史的ダイナミズム:制度主義と「政策論理」アプローチの接合――欧州宇宙政策を例にとって――」(『政策科学』第8巻第3号、2001年1月)

〔研究の視角〕

現在の研究視角としては、「ヨーロッパ=EU」という観点を抜け出し、EU以外の「ヨーロッパ」がいかにEUとの関係を構築するか(例えばWEUのEUへの統合など)に関心を持ち、特に制度的問題や加盟国の対応などに着目している。EU以外の「ヨーロッパ」を見ていくことで、加盟国の自律性がどの程度失われたのか、またEUがひとつの政体(polity)になっていくことが出来るのかどうかを検討していきたい。

2.柑本 英雄

エッセクス大学大学院社会学研究科修了、早稲田大学社会科学部元助手、主著『国際的行為体とアイデンティティの変容―欧州沿岸辺境地域会議と共通漁業政策をめぐって』(成文堂、2000年)、
e-mailto : 9971504g@mn.waseda.ac.jp

「新欧州地域主義の胎動」

法学・経済学・政治学が主流を占める日本EU学会で、社会学を分析手法とする私は、さしずめ新しく発見された「希少品種」といったところであろうか。国際学会で、かつて巻き起こった「ソシオロジカルターン」とまでは行かずとも、ここでは、せめてEU学会におけるマイノリティー「社会学」のプレゼンスを示しておきたい。

今、国際社会の深層では、我々国際関係論研究者の根底を揺るがす「社会単位の組換え」が進行している。確かに、現実主義者が唱えるように、国家が国際社会の重要な行為体であり、それらを中心とした国際体制が完全に終焉したわけではない。EUでさえも「スープラナショナル」の形容に見られるように、国家という行為体を抜きに語ることはできない。しかし、リージョンの一つ下位の「サブリージョン」、もう一段下位のオイレギオに見られるような「マイクロリージョン」では、地方自治体が政策立案能力を身につけ、地域という「政治空間」をコーディネートし始めている。EUは、国際的行為体としての地方自治体に目をつけ、サブリージョンの地域協力を進めるため、1997年からコミュニティーイニシアティブINTERREGⅡCを開始した。私の研究対象とする北海サブリージョンでは、『国際的行為体とアイデンティティの変容』の中でも示したように、欧州沿岸辺境地域会議(CPMR)所属の地方自治体が中心となり、北海サブリージョンという政治空間を立ち上げるべく様々な地域協力プロジェクトを行っている。このINTERREGⅡCは、ⅢBに引き継がれ、現在では、地方自治体のみならず、商工会議所、大学、漁協などまでもがプロジェクトの立案者となって地域協力を促進させている。

今後の国際社会の姿を予測するためには、国際関係論がこれまで行ってきた「体制」「規範」の分析に加えて、「行為体」とりわけ地方自治体のような行為体の「深層に潜むアイデンティティ」の変容に注目し、国際社会の動向を分析する必要がある。私のような社会学研究者が日本EU学会に貢献できるのは、この点にあると考える。


.在外研究からの帰国報告

勝井 真理子(かつい まりこ)

1.最終学歴:慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻前期博士課程修了

2.現在の所属:慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻後期博士課程3年

3.在外勤務先:在ルクセンブルグ日本国大使館 専門調査員

4.調査委嘱事項:ルクセンブルグにおける国際金融情勢に関する調査・研究

5.在外勤務期間:1997年10月~2000年10月

6.主な職務内容:

(1)      ルクセンブルグ金融センター全般に関する調査・研究(プライベート・バンキングや投資信託等一部の金融業務に特化したニッチ市場の実態、銀行守秘義務に関わる問題、マネーロンダリング対策、金融機関の活動状況、EMU発足後の経営戦略及び官民のユーロ導入対策等)

(2)      EMUと欧州金融・資本市場の再編に関する調査・研究(金融機関のM&A、各国証券取引所及び証券決済機関の提携・統合計画、欧州市場における電子証券取引ネットワーク(ECNs)の伸張等)

(3)      EU域内税制の調和化に関する調査・研究(「税制パッケージ」についての政治的合意(フェイラ欧州理)を巡る加盟国間の交渉過程及び本件がルクセンブルグ金融センター及び国際資本の流れに及ぼす影響等)

(4)      EU外相理事会(ルクセンブルグ、4,6,10月)の結果(結論文書及び議長国記者会見)報告

(5)      欧州投資銀行(EIB)の活動に関する報告

7.主要業績:

「EUの『民主主義の赤字』とその克服の模索」『法学政治学論究』1997年第33号

「EMUと欧州金融・資本市場の再編」『外務省調査月報』1998年第2号

「EMU発足一年の欧州金融・資本市場」『外務省調査月報』2000年第1号

鶴岡 路人(つるおか みちと)

現在の所属:慶応義塾大学大学院法学研究科

在外研究先:ジョージタウン大学 政治学部大学院/ドイツ・ヨーロッパ研究所(CGES)(米国ワシントンDC)

在外研究期間:1999年7月から2000年9月

研究テーマと研究成果:①ドイツ統一外交、②クリントン政権期の米欧関係(米・EU関係、NATOなど)、③EMUについて研究を進めた。①については2001年1月提出の修士論文を執筆中である。統一ドイツのNATO帰属問題と米欧関係を軸に、ドイツ統一とヨーロッパ冷戦の終結過程を論じている。②については、クリントン政権期の米欧関係という観点から、米・EU関係、NATO問題(東方拡大、EUの防衛協力を巡る米欧関係)などを個別的及び総合的に検討してきた。このうち、クリントン政権期の米・EU関係及びアメリカのNMD(米本土ミサイル防衛)計画をめぐる米欧関係については、それぞれ論文を用意している。③については、EMUを規定したマーストリヒト条約の成立過程を、ドイツ統一などを巡る独仏関係を軸に政治的側面に注目した分析を行っている。ヨーロッパを研究する際、アメリカや米欧関係といった視点は、日本ではとかく見落とされがちであるが、特に安全保障面における米欧の不可分の関係を考えれば、そうした視点もやはり無視するわけにはいかないであろう。ともあれ、1年間という短い期間ではあったが、アメリカでヨーロッパ(米欧関係)研究を行うという日本人としては極めて貴重な経験をし、新しい視野や視点を得ることができたと思っている。


Ⅸ.新入会員の紹介(現会員総数 431人)

1. 徳光 由佳里   名古屋市立大学経済学部・助手 経済

2. 山本 武信   (社)共同通信社編集局外国経済デスク 経済

3. 黒川 洋行    関東学院大学経済学部経済学科・専任講師 経済

4. 土肥 義博    農林水産省経済局国際企画課海外情報室情報企画官 経済

5. 増島 建     獨協大学法学部国際関係法学科・助教授 政治

6. 兵藤 長雄    東京経済大学現代法学部 政治

7. 寺田 悦子    北海学園大学経済学研究科博士課程後期 経済

8. 百瀬 好道    NHK(日本放送協会)解説委員室チーフ・ディレクター 経済

9. 廣田 功     東京大学経済学部 経済

10.  亀井 弘和   (株)社会基盤研究所調査部主任研究員 経済

11.  八田 善明    外務省 法律

12.  中西 康     京都大学法学部・助教授 法律

13.  井上 裕司    名古屋大学大学院法学研究科博士課程後期2年(日本学術振興会特別研究員) 政治

14.太田垣 みどり  HECアッシュウセ経営大学院日本代表 経済

15.井上 淳     慶應義塾大学大学院生(法学研究科政治学専攻) 政治

16.松岡 誠     立命館大学院政策科学研究科博士前期課程 政治


Ⅹ.原稿の募集

次号の「研究の視角 ―若手研究者に聞く―」欄の原稿(40歳未満の大学・短大の専任講師、非常勤講師、助手や研究所研究員等の方)および「在外研究からの帰国報告」欄(6カ月以上の在外研究を経て、2000年1月1日以降に帰国された方)の原稿を募集します(ただし無報酬)。横書き1000字程度(略歴、業績を含む)。事務局まで添付ファイルでお送り下さい。締切は、2001年6月末日必着とします。なお、原稿多数の場合は掲載が次々号以降になることもあります。


 

《本紙掲載記事等の無断転載を禁じる》