Skip to content

日本EU学会ニューズレターNo.5

2000年7月7日

〒240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-4

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究科(国際経済法学系)

庄司克宏研究室内 日本EU学会事務局

Tel&Fax:045-339-3641

E-mail:eushoji@mb.infoweb.ne.jp

European Studies Association-Japan


目次

Ⅰ.理事長挨拶

Ⅱ.「片山謙二先生の人と学問:日本EU学会への貢献」  元日本EU学会理事長 内田 勝敏

Ⅲ. シューマン・プラン50周年を記念して、前欧州連合日本政府代表部大使ならびに前駐ベルギー日本国大使にEUおよびヨーロッパについて語っていただきました(五十音順)

1.「EUとは?」 前欧州連合日本政府代表部大使 時野谷  敦

2.「まだまだ遠いヨーロッパ」 前駐ベルギー日本国大使 兵藤 長雄

Ⅳ.2000年度研究大会(暫定)プログラム(本年5月27日理事会における決定)

Ⅴ.新入会員の紹介


Ⅰ.理事長挨拶 -日本EU学会の皆様へ-

日本EU学会理事長  島田 悦子

本学会初代理事長であり名誉会員であられる片山謙二先生は、しばらく療養生活を続けておられましたが、5月14日に西宮市のアガペ甲山病院にてご逝去されました。ご葬儀は16日10時よりしめやかに執り行われました。ここに謹んでお知らせ申し上げます。

片山先生は我が国において最も早くからEU研究に取り組まれた研究者のお一人で、本学会の創設および発展に尽力され、大きな功績を挙げられました。心からご冥福をお祈り申し上げます。

今年はシューマン宣言50周年に当たり、EUではEU創立記念日である5月9日のヨーロッパ・デイが例年にも増して盛大に祝われました。本年度の第21回研究大会は11月11・12日に近畿大学で開催されますが、シューマン宣言50周年にちなみ、共通論題を「欧州統合の理論と歴史-シューマン・プラン50周年-」といたしました。既に会員の皆様にお知らせしたとおり、内容は必ずしもECSCに限定せず、より広い分野のご報告をいただくことにしました。また初めての試みとして初日に二つの分科会を設けて、報告数を増やしました。5月27日開催の理事会でプログラムを作成し、現在研究大会の準備を進めております。

学会年報第20号は編集委員長の辰巳理事のご努力と関係会員各位のご協力により、例年通り出版され、お手元にお届けできる予定です。

今秋の研究大会の準備に携わりつつ、会員の皆様の積極的なご参加を期待し、当日再び近畿大学の会場でお目にかかれるのを楽しみにしております。


Ⅱ.「片山謙二先生の人と学問:日本EU学会への貢献」                    

元日本EU学会理事長 内田 勝敏

 

片山謙二先生は、去る五月十四日に九十三歳の生涯を終えました。もう、あの温容に接することができないと思うと、いいようのない寂しさにおそわれる。

片山先生は、一九三〇年に九州大学を卒業、江商株式会社(現在の兼松)調査部長をへて、関西学院大学教授(のち名誉教授)、福山大学教授を歴任した。『現代資本主義とEEC』、『世界貿易の発展』など国際経済学に関する多くの著書がある。日本学術会議の第九期議員としても活躍された。

片山先生がEU研究の草分けであり、また日本におけるEU経済研究の第一人者であることはいうまでもない。EEC発足以前から欧州統合に注目して研究をはじめた。EECの原案ともいうべき一九五五年の『スパーク報告』を翻訳し、日本関税協会から出版した。EEC発足の翌年に「関西EEC研究会」を結成してこれを主宰した。わたしもこれに第一回より参加した。当時は、欧州統合がどこまで発展するのか、世界における地位はどうなるのか、など予想もつかない時期であったが、地道な研究をつづけてきた片山先生の慧眼はさすがだ、と思う。この研究会は現在(内田・清水代表)も活発につづけられている。

また、先生はECの学際的な、全国研究組織としてのEC研究者大会を精力的に推進した。一九七四年にEC広報総局のロイ・ブライス氏と関東、関西の四つのEC研究会の有志が会合を開いた。さらに一九七六年十月にロマノ・ウルビッタ氏の斡旋でこれらの研究会の幹事会議が開かれた。ここでの決議をもとに同年十一月に第一回EC研究者大会が開かれるはこびとなった。このいずれの準備会議にも片山先生は中心的な役割を果たされた。

第五回EC研究者大会が「日本EU学会」設立大会となったことは周知のところである。ここで片山先生が当学会の初代理事長に選出されたのである。

先生の学問に対する真摯さと情熱には頭が下がるのであるが、同時に実務的にもきわめて有能であった。私は、「関西EEC研究会」および「日本EU学会」の記録を先生から預かってもっている。たんねんに記された「ノート」をいま読みかえしてみると、学会設立にかけた先生の情熱が伝わってくる。日本EU学会に対する計り知れない貢献を再認識するのである。

先生の研究方法は、深い思考にもとづいて、かなり長期的な観点からテーマを設定した。たんねんに資料を集めた。資料を包括的に網羅せずにはおかなかった。それらの資料とじっくり取り組んで、分析はまことに深いものであった。そして、一定の抽象を守りつつ問題に対する明快な裁定を下すのである。この方法はもともと先生が法律学者だった素地からきている、と考えられる。私は、先生が江商㈱調査部長のころからずっとご指導を頂いてきたが、いまだに本格的に体得するまでには至っていない。

ところで、片山先生の生き方には悠揚せまらず、脱世俗的なおもむきがあった。大正デモクラシーを体現しているという感じであった。私のような戦中派の無粋な者にとっては、まさに憧れの的であった。学ぼうと思っても、とても及ばなかった。そもそも先生は趣味が大変豊かであった。音楽は学生時代にオーケストラ部でフレンチ・ホルンを吹いていた。作曲も楽しむほどの力量であった。短歌にも励んだ時期があった。奥様は著名な歌人である。

一方で、先生は酒豪の大なるものとして、知られている。しかし、本当は酒豪といわれるほど酒に強くない。むしろ酒の通(つう)といったほうがよい。さまざまな洋酒をたしなまれた。私はその風味を教えてもらった。にもかかわらず、なぜ先生は酒豪といわれたのか。先生は雰囲気を楽しまれ、気ままに行動されるために、酔っぱらうとみんながちょっと持てあまし気味となったからである。酒にまつわる先生の逸話は枚挙に遑がないのである。「芳醇な新酒を思わす滋味あふれる人格」と評された通り、豊かな、余りにも豊かな先生の人格から私の受けた影響ははかり知れないほど大きいものがある。

晩年、病院生活を余儀なくされた。病院では、「笑顔の謙ちゃん」で通る穏やかな晩年であった。心より御冥福をお祈りします。


Ⅲ.シューマン・プラン50周年を記念し、前欧州連合日本政府代表部大使ならびに前駐ベルギー日本国大使にEUおよびヨーロッパについて語っていただきました

1.「EUとは?」  前欧州連合日本政府代表部大使 時野谷         

EUとは何なのかを一般の人々に説明することはそれほど易しいことではない。私もブラッセルに赴任して勉強するまではどういうものか判っていたとは言い難い。このところ講演の機会があると例の三本柱の神殿の如き構造を持つものの総体がEUである云々と説明(これがEUの人達自身が用いる説明の方法であると強調)しつつ、それぞれの柱が異なる法的性格、特徴を有することを説明しているが、なかなか理解しずらいところであろう。ブラッセルにいる日本政府代表部の大使はEUに派遣されている大使であるが、東京の欧州委員会代表部の代表である大使は欧州委員会の代表であってEUの代表ではないといった類のことはにわかに理解してもらえないであろうし、いずれにしろ重要なことでもない。

重要なことはEUの個々の活動領域の法的仕組みがどうなっているかはともかく、色々な領域でEUがそれ自体としてEUの名において国際場裡で活動する主体としての色彩を強めつつあるということである。通商対策の分野ではEUはかねてそのように振る舞ってきた。援助の分野でもEUは独自のドナーである。しかし最早これにとどまらない。共同体事項ではなく政府間協力の性格にとどまる場合、あるいは色々の要素が入り交じった複合的なものである場合であっても、そうすることが利益にかなうならEUとしての行動を可能ならしめるよう種々の態様が工夫されることとなる。

ユーロの登場は単一の金融政策で律せられる統合された地域が出現したということであり、その当然の帰結としてEU(厳密には目下のところユーロ11)はその名において金融政策や通貨政策の分野で行動することになる。

EUは諸々の機構的困難を克服してEUの名においてKEDOに加入した。

EUは京都の環境会議でいわゆるEUバブルを構成して行動した。この行動に対する我が国での評判は芳しくなかった。これは法的枠組みがそうであったというのではなく、そうすることがEUの利益にかなうという事実上の行動であったと思われる。

共通外交安全保障対策を体現する「一つの声」としての「上級代表」にソラーナ前NATO事務総長が任命された。共通でない外交安全保障対策が重要な分野で(あるいは重要な分野であればあるほど)多く残ることは疑いをいれないが、欧州統合のこれまでの歴史がそうであったように「上級代表」の活動は少しずつ定着化の方向をたどるであろう。自前の情報収集能力を持たずしては加盟国に依存しないEU独自の政策立案は難しいかもしれない。そうであれば東京を含む欧州委員会代表部をEU代表部に衣替えすることがいずれ提起されるかもしれない。

一昨年12月のサン・マロの英仏共同宣言を契機とするEU独自の信頼性ある軍事力の整備を目指すその後の一連の動きには注目すべきものがある。一朝一夕に米国の能力にひけをとらない能力が備わるはずもないが真剣な努力が継続しよう。

以上のような欧州統合の重要な動きが我が国においても的確に認識されること、その上でこのようなEUとの対話と協力が深まることを期待したい。

2.「まだまだ遠いヨーロッパ」  前駐ベルギー日本国大使 兵藤 長雄

ワルシャワとブラッセルに通算7年間勤務して、激動するヨーロッパの流れを欧州の東西から観察する機会に恵まれた。ワルシャワでは自由化、市場経済化を懸命に進め、EU,NATOへの加盟を実現して一日も早く西欧復帰を図りたい東欧諸国の涙ぐましい姿の一端に触れることができた。

ブラッセルを去る前、ベルギー外務省儀典長から、今やブラッセルは大使の数においても、登録された外国特派員の数でも世界の首都の中で第一位になったと聞いて驚き、認識を新たにして帰国した。EUとNATOの本部を持つブラッセルは、今や全世界に向けてそれだけの情報を発信するようになってきたと云うことであろう。

1999年はEUにとって画期的な年であった。一月の歴史的なユーロの発足に始まり、統合と深化を更に進めるアムステルダム条約の発効、サンテール体制からプローディ体制への交代、同じく欧州議会選挙による陣容の一新、共通外交安全保障政策の具体化、トルコの加盟国候補入り、まさに枚挙にいとまが無い程であった。

同様にNATOにとっても歴史的な年となった。NATO史始まって以来の78日に及んだ空爆作戦、その最中にワシントンで開催されたNATO50周年記念式典と、ロシアとベラルーシを除く全欧州主要国首脳が参加した欧州大西洋パートナーシップ理事会(EAPC)、冷戦下では到底想像だに出来ない光景であった。

そのような中で「ヨーロッパ人による欧州の防衛」というフランスの宿願実現のささやかな第一歩が動き出した。EU独自の緊急対応部隊の創設や西欧同盟(WEU)のEUへの吸収、政治安全保障及び軍事委員会の設置等、確実に一つの新しい流れが始動し始めた。これはEUとNATOとの協力関係が進むことを前提にしている。その前途は未知数であるがソラーナ前NATO事務総長の共通外交安全保障担当上級代表の任命は絶妙な人事であった。

このように欧州は今大きく動いている。しかし、7年ぶりに帰国して毎日の新聞やテレビのニュースを聞いていると、日本ではその大きな鼓動があまり伝わって来ない。ヨーロッパはまだまだ遠い、こんなことで良いのだろうかという思いを深くしている昨今である。


Ⅳ. 2000年度研究大会(暫定)プログラム(本年527日理事会における決定)

日本EU学会2000年度研究大会(11月11・12日、近畿大学)
共通論題: 欧州統合の理論と歴史-シューマン・プラン50周年-

 

第1日午後の部 13時-18時
分科会(13時-14時50分)

 

 

区分

 

報告者

 

論題

 

司会者

 

 

分科会Ⅰ

 

 

 

 

(1)成田真樹子

EU域内格差に関する考察

 

 

 

 田中友義

 

 

(2)高屋/栗原

 

EUにおけるテーラー・ルール適用の是非-ユーロ圏における実証分析-

 

 

分科会Ⅱ

 

 

(1)鈴井清巳

EUのポスト・ロメ政策-欧州統合における対発展途上国政策の転換-  

  中村民雄

 

(2)荒島千鶴

構成国国会の審査制度によるEC立法過程の民主的監督
                休憩 10分
全体セッション(15時-18時)

 

 

報告者

 

論題

 

司会者

清水貞俊 欧州統合に対してECSCの果たした役割の再検討  

 

田中素香

島田悦子

 

ECSCの成立と欧州統合の発展
未定

(ゲスト・スピーカー)

未定
総会(18時-18時20分)
懇親会(18時30分-20時30分)

 

第2日午前の部(10時-12時)
報告者 論題 司会者
(1)細谷雄一 シューマン・プランとイギリス、1948年-1954年  

田中俊郎

(2)八十田博人 50年代イタリアの欧州政策:「例外的」ミドル・パワーの欧州への統合
昼食・休憩・理事会(12時-13時)
総会(13時-13時15分)
第2日午後の部(13時15分-15時15分)
 

報告者

 

論題

 

司会者

(1)     児玉昌巳

 

EUの統治構造に関する考察-エリートによる統治の終焉か:欧州委員会と欧州議会の関係を中心に  

福田耕治

(2)浅見政江 EUにおける統治(governance)と民主主義

 


Ⅴ.新入会員の紹介

1. 伴登 利奈  外務省経済局国際経済第1課 経済

2. 宮崎  征   中京学院大学経営学部・教授 経済

3. 福田 猛仁  九州大学大学院比較文化研究科博士課程 政治

4. 亀岡 悦子  Eversheds法律事務所・コンサルタント 法律

5.     岡部 みどり 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程 法律

6. 吉武 大助  フランス国立オート・ブルターニュ大学社会科学部DEA課程 政治

7. 高田 潔   世界平和研究所主任研究員 経済

8. 鈴木  武   クレディ・リヨネ銀行大阪駐在員事務所代表 経済

9.     松崎 由起子 横浜国立大学大学院 国際社会科学研究科修士課程 法律

10.  伊澤 友之  国際基督教大学大学院 行政学研究科博士前期課程 政治

11.  広部 直子  一橋大学大学院社会学研究科博士課程  他

12.  河井 貴之  早稲田大学大学院社会科学研究科 修士課程 他

13.  石津 憲一  横浜国立大学大学院教育学研究科 修士課程 他

14.  クラフチック=マリウシュ 福岡大学経済学部 経済