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理事長メッセージ: 高屋定美

EUの課題と学会の取り組み

1年前に始まった2023年ガザ紛争はいまも続いています。2014年ウクライナ紛争から続くウクライナ戦争も2年以上が経過しています。これらの安全保障における危機におけるEUも密接に関わっており、外交での役割は重要となっています。しかし、どちらの危機も収束の糸口もまだみられない状況が続いているのはご承知のとおりです。域外への規制力を強めてきたEUですが、近接する危機に対しての外交力は十分ではない印象です。

EU域内でも2024年は大きく揺れました。まずEU政治の面での揺らぎがありました。欧州議会選挙前には、右派の台頭が予測され、議会勢力を変更するまでには至りませんでしたが、右派の議席は伸びました。さらに、それを受けてフランスでは下院選挙が実施され、そこでも国民戦線の台頭が予想される事態ともなりました。結局は下院では中道左派が議席を占め、9月には元欧州委員会委員でブレグジット時のEU側の首席交渉官であったバルニエ氏を首相に任命しました。欧州の政治状況、またフランス内政がこれで落ち着くのかどうかは、不透明です。ドイツ、オランダをはじめ加盟国の内政ではかつてよりも右派が躍進しており、国民の不満の受け皿になっていることも現実にはあります。それら不満をEUが適切に受け止めてきたのかも問われているといえるでしょう。

さらに、EU経済面でも揺らぎがみられます。ウクライナ戦争以来のエネルギー価格上昇を契機としたインフレーションの高まりが、域内市民の経済的な負担を高め不満の要因になってきました。また域内最大の経済大国ドイツ経済の不振も懸念され、今後のEU経済全体の推移にどれだけの影響があるのかが心配されます。一方で、EU経済政策として位置づけられているデジタルフォーメーション(DX)は、偏りはあるものの各国で進展しはじめており、一部の加盟国ではスタートアップ企業の興隆が顕著となっています。DXに関連して法律面ではAI法(Artificial Intelligence Act)が成立し、規制内容に応じて2030年12月31日までに段階的に施行される予定です。アクセルとブレーキを適切に使いながら、DXを進めながらEU経済の強靱化を期待したいと考えています。

さて、本学会の取り組みについてもふれておきたいと思います。昨年、2023年11月25日(土)26日(日)の両日、第44回研究大会が愛知大学において開催されました。共通論題 として「ウクライナ問題とEU」が設定され、経済、政治、そして法律分野から現在も進行中のウクライナ危機とEUとの関係性について報告がなされ、活発な議論も行われました。詳細については、NLに譲りますが、2日目の公開シンポジウムでは非会員の方の参加もあり、熱心な議論が展開され無事、終了しました。大会開催を準備いただきました愛知大学の関係者の皆様にはこの場を借りてお礼申し上げます。

また本年度2024年度の研究大会(第45回)は、2024年11月9日(土)10日(日)の両日、亜細亜大学において開催されます。全体セッションのテーマは、「EU規制戦略の探究」が設定されています。このセッションでは、ブリュッセル効果が認められにくい分野も含め、EU のグローバル規範形成力を広い視点から分析するため、海外からの招聘研究者ならびに国内の経済、法律および政治社会分野からEU 規範形成力に関する現状分析やその可能性と限界、さらには課題と展望などが報告される予定です。開催準備をいただいている亜細亜大学の関係者の皆様には感謝申し上げます。

EUでも積極的に取り組まれているDXですが、本学会でもDXに現在、取り組んでいます。今年は理事選挙を従来の郵送ベースの投票からオンライン投票に切り替えました。このニューズレターが発行された時には、既に投票は締め切られておりますが、本学会では初めてのオンライン投票であるため、戸惑われた会員の方々もいらっしゃるかもしれません。ただ、省力化と迅速化のため今後も学会運営の様々な面でDXを進めて参りたいと思います。これからも円滑な学会運営のため、会員皆様のご理解とご協力をいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

(2024年9月25日更新)


コロナ後の学会運営

2023年4月より理事長を拝命いたしました。会員の皆様とともに、また関係諸団体とも協力しながら、学会の発展のため微力ながら尽力したいと存じます。

新型コロナ感染下にありました2020年、2021年にはやむなくオンラインでの研究大会を開催いたしましたが、2022年に対面開催に戻しました。そして今年2023年は懇親会も予定され、ようやく本格的な学会の対面開催となります。あらためて会員皆様のご協力をお願いいたします。

会員皆様の研究対象であるEUは常に変化を迫られてきました。EUはこれまでもいくつかの危機に直面してきました。ユーロ危機やBrexitを経験しただけではありません。最近でも新型コロナ感染危機、ロシアによるウクライナ侵攻にともなう危機に直面し、そのたびに統合を推進する力とともに脱統合ともいえる力が働き、EU統合の複雑さを示しているといえるでしょう。私たちは政治・経済・社会・法律といった異なる学問領域から、その対象に迫っていますが、これからのEUの状況はより複雑になるものと考えられます。たとえば、ウクライナ侵攻は従来のEUの対外戦略である戦略的自立にも影響を与えるでしょう。また新型コロナ感染からの回復や競争力強化の新たな産業基盤形成のため、欧州デジタル戦略や欧州グリーンディールが打ち出されましたが、その成否とともにそれらがもたらす変化にも着目する必要があります。

私の研究対象は、EU経済であり、特にECBの金融政策を分析してきました。現在、EU経済はロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、高いインフレに直面し、ECBも利上げを行うといった対応をとり、それがEU構成各国にどのような影響を与えるのかが検証されるでしょう。また、グリーンディールは新たな環境政策であると共に、産業政策でもありエネルギー供給が不安な中で今後の展開は注視されるものと考えています。一方で、欧州政治において、構成国の中には移民などに不寛容な右翼政党が台頭しており欧州統合を推進するEUとの対立の可能性も今後、課題になるでしょう。いくつかの危機を経験してきたEUですが、今後も危機が起きうる可能性は潜んでおり、統合のレジリエンスが試されるでしょう。

さて、日本EU学会が直面する課題として、会員数の減少があげられます。わが国の少子高齢化にともない、若手研究者が減少しているため多くの学会でも同様の課題を抱えています。しかし、会員数の減少が続くことは、将来にわたる学会運営の継続に支障をきたすことにつながるでしょう。そのため、何らかの措置を講ずることが大切かと思います。また国際交流に関しても課題はあるものと考えています。新型コロナ感染が終息に向かい、各国との交流もコロナ前の状況に戻りつつあります。学会の国際交流も、今後、どのようにしてゆくのか検討することも必要と思われます。

いままでの理事長、理事会がそうであったように、オリジナリティーがあり、緻密に練られた研究を進めるための、学問上の研鑽の場として学会を盛り上げていきたいと考えています。これまでも多くの研究成果を達成してきた学会ですが、今後も一層の発展を促す場としての機能を強化していきたいと考えております。会員皆様方の一層のご協力をお願いいたします。

(2023年7月27日更新)


過去の理事長メッセージ

森井裕一理事長(2021年4月〜2023年3月)

中村民雄理事長(2019年4月〜2021年3月)

岩田健治理事長(2017年4月〜2019年3月)

福田耕治理事長(2015年4月〜2017年3月)

須網隆夫理事長(2013年4月~2015年3月)

久保広正理事長(2011年4月~2013年3月)

辰巳浅嗣理事長(2009年4月~2011年3月)

庄司克宏理事長(2006年11月~2009年3月)