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理事長メッセージ

You say “Goodbye” and I say “Hello”

 

2020年1月31日、ついに英国がEUを脱退した。2016年6月23日の脱退国民投票から3 年半余り。迫っては延び、また迫る交渉期限の中で、脱退協定の承認をめぐる、英国議会のあの手この手の活劇に、世界が何度も釘付けになった。 だがついに荒乗りのジョンソン騎手がラストスパートをかけ、2019 年12月の総選挙で同じ話 題に飽きた国民の支持をえて、脱退を敢行した。 英国のEU脱退(Brexit)が欧州史・英国史における一つの転換点であることは、明白である。その歴史的評価は、余燼が収まるころから本格化するだろう。当学会でも研究大会の一部として、いずれ折を見て、一つの学際的分析のセッショ ンをたててはどうだろう。

さて今後のEUをどう学問的に考察すればいいだろう。もちろん、今後EUと英国がどういう関係をとりもつかも、追うべき論題である。直近では、この6月末までに英国がEUと新漁業協定を妥結できるか。また6月末までに通商交渉の進捗がどれほど円滑か。こうしたことが、今後の関係の取り持ち交渉の安否の指標となるだろう。2020 年の年末までの過渡期間の延長をする かどうかを7月の欧州理事会で決めるからである。もっとも今のところジョンソン首相や英国の大臣たちは過渡期間の延長に合意することを 立法で禁じられている(2020年EU脱退協定法 33条)。しかし、案ずるには及ばない。これはジョンソン保守党政権が入れさせた条文で、保守党が安定過半数を握る英国議会は、必要とあらば立法を改正できる。法的には、こけおどしである。政治的には、どれほど英国がNo Dealを本気でカードにするかであって、双方にとって頭痛の種である新漁業協定の成否が試金石となるのではなかろうか。Take back control を合言葉にした脱退である。自分たちの漁場、自分たちの魚を守れというのは、市井に通りやすい論理 である。もっとも現実問題はそんな論理だけでは片付かない。当の魚がもはや漁場に涸渇しているから、どう守り育て持続可能な資源としていくかが問題なのである。だからこそ脱退後の英国もEUと協力して、北海の漁場維持のために漁業協定を結ばなくてはならないのだ。そういう屈託を見て取ることが肝要である。

これとは別に、英国なきEUが今後、域内・域外にどのような政策を展開するかも大事な問題である。その一角は、今年の秋の研究大会で、2019年の日欧諸協定を題材に取り上げることになる。若手会員を含め、ぜひ報告やポスターなど、積極的に応募していただきたい。

さらに、今後のEUについては、日々の変化の表層を超えた視点から考察を深めることも必要 だろう。たとえば、Brexitに至るまでに英国が繰り返した数々のEU 批判。その中で、他のEU構成国やEU市民にも共有されるだろう、普遍的な問題提起もあったことを忘れてはならない。その一つは、EU政策形成における多様なEU市民の声が十分に反映されていないという市民の不在問題、またの名を民主主義の赤字、あれは一向に解消されていないのではないか。欧州議会の筆頭候補方式も、2014 年にはうまくいっても、2019 年には失敗した。今後の命運も不透明であ る。世論調査では、2019年選挙で筆頭候補方式がモチベーションで投票した人はわずかで、むしろ気候変動と落ち込む経済をなんとかしてくれという動機で票を投じた人が大部分だったと いう(注) 。EU 市民の不在問題は一例にすぎない。Brexitという現象に終わらない、それを超えて EU に伏在する、万年病のような問題もあること に、我々も研究の目を向ける必要があるだろう。 イギリス人にサヨナラをいっても、自分に残る病にコンニチハを言われるなら、何も問題は変わらず解決もしない。そうか、そうか!ビートル ズのあの曲の極意は、そこにあったのか…!?

(2020年1月31日)


念力を超えて

 

4月より理事長として学会を盛り立てる役となりました中村民雄です。一つの話をまくらに、抱負を語りたいと思います。

今年3月のこと。29日のBrexit(英国のEU脱退)日が迫っても、英国議会はメイ政権がEUとまとめた脱退協定案を大差で否決し、次の一手も決することができずにいたそのとき、忽然と現れたのが、ユリ・ゲラーでした。1970年代にスプーンを念力で曲げる(と称する)パフォーマンスなどで一世を風靡したあの人物です。ちなみに平成生まれの学会員には、ポケモンGoのユンゲラーの人間版と思っていただければ結構です。もっともこの人間版はフーディンに進化せず、また不思議と老化もしないのであります。

そのユリ・ゲラーが3月22日、「念力でBrexitを止めてやる」宣言を公表。サイコ的に英国民の大半がBrexitを望んでいないと感じた。なればテレーザ、そなたがそれを強いるなら、われ念力でそれを止めん。こうのたもうた。あな、おそろしや。実際、本稿執筆時(憲法記念日)まで止まっているのであります。これは笑いぐさでしょうか。

ならばお尋ねしますが、私たちのどれほどが、念力を超える〈思念力〉をもって、EU進化史におけるBrexitの政治・経済的含意や思想的意義を論評し、またBrexitとEUの抱える諸問題との関係の有無を体系だって説明できるでしょうか。出来事をなぞり、目先の選択肢や予測にすぎない可能性を語ってお茶を濁していませんか。

いなBrexitだけではありません。そもそもEUなる存在を、単に集権的統合ありきの目線でのみ語るのではなく、集権的統合も脱統合や差異化もどちらも同時にありうるといった目線や、欧州茶碗の中の嵐とグローバル風を吹かせる目線からも、ためつすがめつ、思念し分析しているでしょうか。分析の道具立てを本当に我々は十分にもっているのでしょうか。自分の目線やモデルすら疑う内省をもって、日々、次なるリサーチに我々は取り組んでいるでしょうか。

こういう謙虚にして直球の知的探求を以て、私は日本EU学会を盛り立てていきたいと思います。ネット社会の今更、新情報を得るために学会に来る人は多くありません。そうではなく、星屑ほどある情報から玉を瞬時に選別し、星座を描くように学問的方法をもって関連づけて含意を読み解く。さまざまの星座の描き方(=リサーチ)の強靭さを異なる目線から議論して試してみる。そういう知的刺戟の悦びを求めて、会員は研究大会に来られるのだと思います。それを実現しましょう。企画に力を入れて学会を盛り上げ、また地方部会で練られた緻密な報告を推挙し、遠くであっても来てよかったと思える研究大会を実現していきたいと思います。こうして新参の会員であっても発言し報告したくなるような雰囲気をいっそう高めていきたいと思います。

どうぞ皆様、ご参画のほど、よろしくお願い申し上げます。

(2019年5月3日)


過去の理事長メッセージ

岩田健治理事長(2017年4月〜2019年3月)

福田耕治理事長(2015年4月〜2017年3月)

須網隆夫理事長(2013年4月~2015年3月)

久保広正理事長(2011年4月~2013年3月)

辰巳浅嗣理事長(2009年4月~2011年3月)

庄司克宏理事長(2006年11月~2009年3月)